チラシは営業マンです。
ひとたび配られてしまえば、チラシ自身は営業活動に入ります。
いかに相手の気持ちを先回りして想像できるかが勝負、
という点でも人間の営業マンと似ています。
相手の気持ちを代弁し、思いを文字に託して配れば、
紙バージョンの営業マンに早変わりです。
チラシといえば、商品説明や言いたいことをとにかく詰め込んで
レイアウトもへったくれもないようなものも存在します。
逆に、イメージビジュアルに特化して「結局何のチラシ?」
みたいなものもあります。
たまたま遭遇した、株式会社エリア・パーキングの駐車場のチラシが
とても秀逸でしたので、ご紹介します。
(東京をはじめ、全国の色々なところで展開している会社のようですね)
1.キャッチコピーに副詞を用いて、気持ちを強調
まず目に飛び込んできたキャッチコピー(タイトル的な部分)には、
こう書かれていました。
「とにかくおトクに駐車場を借りるなら!」
「駐車場料金がおトクです!」ではありません。
この駐車場のウリは、利便性や広さ(台数)よりも、料金のようです。
お客様側からすれば、もちろん安く駐車場を借りられる方がいいです。
気持ちとしては、「駐車場を安く借りたい」と思っています。
もっと正確に言うと、「ちょっとでも安いところで駐車場を借りたい」です。
この「ちょっとでも安く」という気持ちを、「とにかく」という副詞が
実に絶妙に言い表しています。
お客様の「ちょっとでも安いところで駐車場を借りたい」は、
もっと砕くと「とにかく安いところを探してるんだ、ウォー」ですよね。
場合によっては、「安ければ他のことは多少目をつぶるぜ」かもしれません。
この4文字を入れることで、一気に”気持ち言葉”に近づいてきた印象です。
2.機能説明欄で具体的な”悩み”を明示する
キャッチコピーで”安さ命”のお客様が反応したところで、下に機能の説明欄が続きます。
①具体的な車種名を入れる
今回のチラシの駐車場は機械式のようです。
機械式の場合、大きな車が入れるかどうかがひとつのポイントになるかと思います。
大きめの車も受け入れられる場合、「ハイルーフ車もOK!」みたいな書き方が一般的でしょう。
このチラシには、具体的な車種名が書かれていました。
「アルファード・エルグランド・セレナOK!」
ただ単に「ハイルーフ車」と一般名詞で書かれるよりも、具体的な車種名が
並んでいた方が、より身近に感じます。
「そうか、ハイルーフもいけるんや」が「お、セレナOKやって。俺もいけるやん」
に変わります。
自分事として感じやすいということですね。
もちろん全てのハイルーフ車種名を並べるのは現実的ではありません。
仮に自分の乗っている車種名がなかったとしても、固有名詞が並んでいると
引きこまれやすいという一定の効果が見込めます。
ちなみに、ハイルーフ車以外の車種名も並んでいました。
「デミオ・ノート・カローラなど超オトク」
具体的な車種名だとやはり身近に感じるのと、「たとえばこれらの車種も
もちろんいけますよ。お得ですよ」というメッセージになっています。
②関心や悩みをひたすら代弁、代弁、代弁
車種名の下には、ほどよくあおるこんな文言がありました。
「迷っているうちに埋まってしまいますよ」
早めの購買行動を促すあおり系の文言は、「お急ぎください!」というのが一般的です。
「お急ぎください!」は言い換えると、「早く買ってください!」です。
売り手側の都合を一方的に言い表している印象が残ります。
このチラシでは、
「埋まってしまいますよ」という表現で早く申し込まなかったらどうなるかを、
「迷っているうちに」という表現で申し込みにまだ至らないお客様の前段階の気持ちを、
ズバリ言い表しています。
中でも「迷っているうちに」が秀逸です。
「早くしないと」ではありません。
即決しないお客様側の心理を想像すると、
安いのはわかった→ハイルーフが入るのもわかった→でもどうしよう
になっています。
「でもどうしよう」の内訳はだいたい以下の3つです。
(1)もっと他に安い駐車場はないだろうか
(2)現地を見てから決めようかな
(3)手続きが面倒くさいな
状況は違えど、どれも迷っている状態です。
「迷っているうちに」は、「そんなこと考えてる間に埋まっても知りませんよ」という
具体的な迷いを包括した、プチ恐喝的な表現です。
単純に「早くしないと」とあおられるよりも、”言い当てられている感”が強いです。
上記のあおりの下に、駐車場の特徴が箇条書きされています。
お客様の気持ちを清々しく代弁している表現を抜粋してみます。
●「毎月○○円の違いで年間△△円も節約できます」
●「操作はとても簡単です」
●「通路広く、安心きれいな駐車場です」
●「機械式が苦手な方にもお勧めです」
お客様が抱き得る以下のような疑問・不安に、先に答えています。
「安い安いって、他のところといくらぐらい差があるの?」
「機械式って、何か難しそう。爆発とかしない?」
「ギュウギュウ詰めで狭そう」
3.地図なしで場所をイメージしてもらう
このチラシに地図は載っていません。
その代わりに、住所と説明文が文章で書かれています。
●「○○交差点 ファミマ斜め前 南側」
●「大通りから1本中に入った道路から出入りできます」
「ファミリーマート」ではありません。
「ファミマ」です。
徹底的にお客様言葉に合わせる姿勢がうかがえます。
地図が載っていないので、お客様は具体的な場所を自分で調べます。
スマホやパソコンの画面を見ながら、「ああ、ここか」となります。
車で見にいってみようと思った場合、道路の状況が気になります。
道路は広いのか狭いのか、一方通行はあるのか、周りの交通量は多いのか、
安いけど車の出し入れが大変だったらイヤだな。
そんな気持ちになったお客様のための文言が
「大通りから1本中に入った道路から出入りできます」です。
おそらく、「ゴチャゴチャした大通りから直接だと落ち着かないでしょう。
ここは、1本中の道からゆったり出入りできます」と伝えたかったのではないでしょうか。
こう書いてあると、「ちょっと見てみよう」という気持ちもより湧いてきます。
4.話しかけられているような気持ちになってもらう
心の中の気持ちがそのまま文字になっていれば、”他人事感”はかなり薄れます。
話しかけられているような書き方を見ると、「自分のことだ」という気持ちが
より強くなります。
今回のチラシを見て、まるで対面接客を受けているような印象を持ちました。
特に駐車場を探していたわけではありませんが、心を惹きつけられた感じです。
ちなみにこのチラシ、フルカラーではありません。
赤と黒の2色です。
赤は強調したい部分のみです。
サイズも小さいです。
ノートの半分くらいの大きさです。
片面刷りです。
両面にビッシリ情報が、というタイプのチラシではありません。
絵の要素は一切入っていません。
文字ばっかりです。
サイズが大きくなくても、フルカラーにしなくても、片面でも、文字だけでも、
充分心に刺さるチラシができるという好例です。
紙媒体のチラシだからと形式ばらずに、逆に会話調のようなお客様言葉を
用いるのはおおいに有効です。
少しでも”気持ち言葉”に変換できれば、「自分のことをわかってくれている」
と親近感を抱いてもらえます。
同じ輪の中に入ってくれていると感じてもらえれば、好感度も上がります。
先回りして想像することは、お客様の気持ちに寄り添っていく行為なのです。
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